風林火猫 3.

もう,少し前の話になるが,15屋の良識たる カミー が2日ほどいなくなったことがあった.


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御年14才ほどのカミーであるが,最近異様によく食べたり,夜中にみゃーみゃー泣いたり,あまり外を出歩かなかったりと
少々不安な挙動が続いた頃だった. その頃は先日も書いたように,小生もモグラ続きでほとんど気にかけてあげられず,
その日も夕方にドアの前でみゃーみゃー泣いたので,トイレかと思い,ドアを開けてあげたのだった.

そして,それから2日間帰らなかった.

昼間や夜,そして夜中,明け方と何回かに分けて,15屋の周辺を細かく呼びかけながら歩いた.
折りしも気温が低く,風や雨があるなど,年齢的なものを考えると厳しい空気が15屋を漂った.

小さな頃から,猫を切らしたことのない家人曰く,「こんな気立てのいい猫は初めてだ」 と言わしめた名猫である.
しかし,カミーが赤ちゃんの時から共に生きてきたその者はと言えば,普段と変わらぬ振る舞いだった… .
動物と生きる者の会得する,ある達観を垣間見つつ,でもそこに本当の迫力のある信頼関係を感じ,小生ごときがドヨドヨしている
場合ではないと思ったものだった.

3日目の夜,22時近くなって台所の外の洗濯機の上に微かに何かが乗っかる音に気づいたのも家人だった.
「あれ… ,帰ってきたんじゃない?」

その声に台所の外を見るや,窓に映る猫の影に,2人で歓声をあげ,ドアから外に飛び出て,カミーを抱いて中に入れた.
少し痩せてしまっていたものの,風邪をひいてるようでもなく,よく食べてよく寝た. 奇跡だと思った.
その翌々日,少し冷えた雨の降る日に,またカミーが昼間から姿を消す.

日が暮れても戻らず,15屋内に緊張が走ったが,その夜遅く縁側の戸をトントン叩くものがある.
開けると,ドラ がいた.

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家人が寄ると一声みゃーと鳴いた.
そしてよく見ると,その後ろにずぶ濡れのカミーがいた.

あわててバスタオルで包み,家の中に入れる. その後も特に体調を崩すこともなく,現在に至る.
1日38時間くらい寝つつも,むしろ最近の方がしっかりとしており,あの失踪前に感じた不安もほとんど感じない.
よく食べ,よく眠る.

しかし,あの失踪は何だったのだろう.

そして返す返す想うのは,あの夜のドラの行動だ.

未だに15屋内ではよく話題にする. 確かにあの夜,ドラはカミーの帰還を知らせたのだ.
そうとしか考えられない.

ドラ は15屋まわりの猫社会では,双璧とも言うべき存在. 最近こそ,それほどでもないが,一時期は物凄い頻度で傷が絶えず,
よくぞ生きていると思う. 小生たちがここへ越してきた頃から今まで,近づけば逃げるし,それは未だにそうで,
あの警戒ぶりも余程かつての経験で人間から酷いことをされたことがあるのだろう.
うちのもう一匹の白ネコ,キハチとはもちろん相容れず,他のオス猫同様,縄張り争いの対象だ.
それでも15屋内で,ドラ を外猫同然にしているのは,昔からどことなくカミーを守ってくれている節があるからである.
越してきたばかりの頃,随分とカミーを追いかける仕草があり,カミーもその度に威嚇の声をあげていたが,当のドラと言えば,
ケンカを仕掛けるでもなく,静かに距離を保ち,去っていく. この1年ほどは,ご飯をほぼ毎日食べに来るようになり,
縁側で休むようになり,これまた現在に至る. そして先の夜の出来事だ.

最近では縁側で,カミーとドラは1mほどの至近距離でもそのままお互い気にせずに寝ている.
キハチには,変わらずに容赦なく突進してくる… .

しかし近頃はご飯を食べている時だけ,小生たちが頭を撫でても平気な時がある.
つくづく猫とは奥深い生き物だと感じる.

そして一期一会を考えずにはいられない.

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Comments

  1. 私だけが知っている秘密ですが、猫の小さな頭の中では非常に高度な精神活動がなされているのです。ある意味、人間のそれを越えているのです。秘密ですよ。(笑)

  2. gauche says:

    > samurai-kyousukeさん

    お立ち寄りありがとうございます. その秘伝をもう少しお授けください.(笑)
    ジェイ君やエル君を拝見していても思いますが,やはり世の猫に対する先入観は,
    かなり偏ってますよね?! これは共にしたものしか,わからないようです… .

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