15夜通信 / 艶やかな声色

amazon池波 正太郎 原作
田村 高廣  江守 徹  中村 吉右衛門 主演 / 宇仁 貫三 殺陣

鬼平犯科帳 「雨乞い庄右衛門」
1991.2.6 フジテレビ・松竹 46min カラー / スタンダード

ご覧になってもよろしいですが,真髄を見るご覚悟を… .


と,ちょっと脅かしてみました. (^^;

しかしこの作品,鬼平TVの中でも知る人ぞ知る作品らしいです.

今回,書くにあたり再確認のため「雨乞い庄右衛門」で検索してみたら前回ちらりと小生が書いたのと時を同じくして,
つまり田村高廣さんが他界された折に書かれたものが多く,やはり田村さんをして,あの作品を思い浮かべる方の多いことに
感慨を覚えます. 小生も長らくO.A時の録画したVHSを保存し,繰り返し繰り返し見ておりました.

ご存知の方も多いと思いますが,田村さんと言えば,池波先生が生前に「剣客商売」の映像化の折は秋山小兵衛役にと
遺言された方. 役者としてのキャリアや力量を小生が云々するのも僭越… . 池波先生が’90年に亡くなられて,その翌年に
放映されたこの作品にはどうやらその見えない力も働いていると思われ,業のようなものをひしひしと感じえずにはおれません.

生前,池波映像作品にあったと言われる原作者チェック… .例えば,
「この時代のこのクラスの料亭の仲居はそのような障子の開け方はしません… 」
等の高いハードルを越え,原作がすでに脚本の体をなしている難しさも相俟って,ついつい「料理」や「粋」の表現等の
ディティールに逃げてしまうのが楽なのですね. しかし,本当の池波作品の面白さは各登場人物が持つ独特の体の動き
そのものなのではないでしょうか.

その中で生まれる自然な抑揚や仕草から剣客,大盗,仕掛人を表現することが池波作品と相対することであり,
それがあってこその「粋」と心得ます.

もともと「怯まぬ迷わぬヒーロー」が苦手な小生は,池波作品でも「鬼平犯科帳」だけはそれほど読めておりません.
庶民派の小生故,火盗改と言えば,「雲霧仁左衛門」の阿部式部の方がしっくりきます.

この作品では,中村さん演じる鬼平はほとんど出てきません.
江守さん演じる岸井左馬之助と田村さん演じる雨乞い庄右衛門の二人芝居といってもいいでしょう.
しかし,この田村さんが実に粋なのです.

江守さんがリードを取る都合上,またそれに乗った田村さんの速度も加算されて,芝居的には少々オーバーアクトというか,
見得を切るようなテンションで進んでいきます.若干古いタイプの時代劇の芝居のリズム.
まずそれに乗れるかというところで,この作品の観客を二分しますが,できれば乗っていただきたい. (^^;
乗れれば,田村さん演じる雨乞い庄右衛門が,かつての手下と再会した折に,それまでの流暢な上方言葉から,
「ぬるり」とした盗っ人のお頭の節に口調が変わったところでゾクゾクっとくることでしょう. (^^

クライマックスのハイコントラストな撮影と宇仁さんの流れるような殺陣がすべて田村さんのために準備されていることに感動します.
そして江守さん演じる左馬之助の一言のみの最後のセリフで,ジプシーキングスのエンディングテーマに変わるのですが,
O.A当時,これを晩御飯の箸も止めて見ていた小生は,エンディングの曲に入った時に「ウ~ム」と唸ったのを今でもハッキリと
覚えています. これが本当にTVドラマか… .
池波チェックが無くなって18年,そして田村さんが亡くなられて今年で2年… .
手綱が少々緩んだ観のある最近の映像化に,もう一度深い愛を呼び覚ましていくべく,TSUTAYA東村山に並ぶ鬼平作品群から,
迷わず手に取った 第2シリーズ「雨乞い庄右衛門」 と 第4シリーズ「討ち入り市兵衛」 なのです.

・『鬼平犯科帳』 Who’s Who
とにかく凄い,素晴らしいの一言に尽きます.これが愛です.
・田村四兄弟
オフィシャルサイトです.

15夜関連記事 2006.05.21 「梅雨仕度」

Comments

  1. 龍女 says:

     解説有難うございます。
     是非鑑賞したくなりました。
     今日は私の好きな宇多田ヒカルちゃんの誕生日です。
     彼女は中でもドラマ版の鬼平の大ファンで、先日の公式ブログにDVD-BOXの入ったダンボールの写真が載っていました。
     羨ましい…。
     
     これからも記事を楽しみにしております。

  2. gauche says:

    > 龍女さん
    ぜひご覧くださいませ! 田村さんはロケとなると,撮影日よりも3~4日ほど前に現地に入るようにしていたと聞きます.
    そこの空気に体を馴染ませることが目的だと推察しますが,いずれにせよ,渾身の大盗ぶりを堪能ください.
    宇多田さんはまだ25才なんですね… .

  3. めとろん says:

    遅ればせながらのコメント、めとろんです。
    『鬼平犯科帳』!小生は正直、池波正太郎氏のよき読者とはいえないのですが、兄が大ファンだったためこのドラマを観るようになりました。
    初見終了時には呆然自失状態。大感動して見事に"染まった"ことを憶えています。
    当初このドラマは『ハードボイルド時代劇』と銘打たれていましたよね。全般的に、本当によく出来たドラマだとは思うのですが、あの「第1シーズン」の緊密さと緊張感、映画並みの完成度は特別だったと感じていました。
    今回、記事を読ませて頂きハタと膝を打った次第。
    池波チェック…考えるだに恐ろしい(笑)ひとつまた勉強になりました!
    それと、このブログの(相変わらず)カッコいいデザインにも嫉妬致します(笑)

  4. gauche says:

    > めとろんさん
    お立ち寄りいただきまして,ありがとうございます. 本年もよろしくお願いします.
    実は最近,いくつかめとろんさんのブログも読ませて頂いたところでした! 近日中に参上いたします… .(笑)
    池波先生のいらっしゃる折から始まり,初期の頃までは締まった話も多かったように記憶しております.
    この記事で上げた2つのタイトルは共に「大盗もの」で,話も似たようなお話ですが,O.A時より心に残った
    タイトルです. 「討ち入り市兵衛」は市兵衛役を,鬼平シリーズでは様々な役で何回か出演なさっています
    人間国宝中村又十郎(播磨屋)氏です.

    追伸,お子さんの様子はいかがですか?
    かわいいでしょう…!

  5. めとろん says:

    ありがとうございます!度々めとろんです。
    生まれて早7ヶ月。元気いっぱい育っております。
    mixiではささやかな育児日記的なものを時々綴っています。もしgauche様がmixiされていたら来てみて頂けたら幸いです。

  6. gauche says:

    > めとろんさん

    それでは遠慮なくデレデレぶりをということで.(笑)

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