15夜通信 / ツクモと読む

amazon
市川 崑 監督
市川組オールスターキャスト
石坂 浩二 主演

「 女 王 蜂 」
1978.2.11 公開 東宝 139min フジカラー / ビスタ1:1.5
撮影  長谷川 清 / 音楽  田辺 信一


犬神家の新作版リリース記念!
先日の父の日に,家族が借りてくれたもう1作について… .
いつもの15夜と違う,衝動と偏見で走ることをお許しください. (^^
この映画の最大の見所は,序盤にあります.
それは… .


伴淳三郎先生と三木のり平先生が,1枚にクレジットされることです!

もうこの歴史的瞬間を確認するために,見続けているといっても過言ではありません.
以下,実況です.

プロローグは,やはり不安なF値の絵で始まります.
しかも市川-長谷川コンビ得意の超ロングと,相変らずマッチカットを無視した市川インサートをバシバシ繋いでいきます.

この作品は珍しくフィルムはFUJIをチョイスしています.
おそらく赤い着物を着せたり,紅葉,そしてお抹茶と,色気のあるキービジュアルが出てくるため,
鮮やかな発色を狙ったものと思われます. 前作までの色に対するフラストレーションが爆発したのでしょう.

あと冒頭の市川節は,「その人物の若い時代の回想シーンも同じ役者がやる」 です.

これは必ずと言っていいほど,60代から後の市川作品にはあります.
萩尾さんはともかく,当時40代半ばを過ぎた仲代さんの学生姿や声色を抑えた若さを強調する発声は
ロデオに近い感覚がありました.振り落とされないようにしましょう.

悲鳴から後ですが,アメリカの人気TVシリーズ「24」の編集マンは,おそらくこれを見ているのではと,
軽く疑惑を抱く報道型ズームとリズミカルな編集裁きが続きます.
殺害現場で冷静に時計塔の鐘の音を止める岸さんの芝居を受けて,生理的に詰めた間で,
明朝ではないタイトルと音楽がバーンと始まる.
直前のカットでBGMを使わずに入るので,この唐突さは気持ちイイです.

明らかに,ポール・モーリアで有名な「オリーブの首飾り」を意識した感のある「女王蜂のテーマ」ですが,小生は好き.
曲に合わせて,フォーカスを外した絵が続きますね.
この手法,一見よくあるようで無いやり方だと思います.

オープニング用とわかってはいても,フォーカスアウトで撮り続けるのは少々不安が過ぎるものです.
ボケ足も合わせなくちゃならないし… .
想像ですが,この辺りの決断の良さは,市川監督がアニメーション上がりだからかなと思います.
アニメーションって必ずオープニング曲用の絵作りをするでしょう?
実写だけで来ている監督には,意外にこの感覚がないのを感じます. 小生も,最初はアニメーション志望でした… . (^^;
だって曲がAメロに戻ってきたタイミングで出演者のクレジットに入り,石坂さんのクレジットで初めてフォーカスインしますから,
この撮影を確信犯的にやっている市川監督は,にやにやしながら編集していただろう思いますよ.

明朝,明朝,明朝… .次々にクレジットされる市川組常連キャストと歴代の**たち.
嗚呼そして,ついにその時がやってきました.
曲のクライマックスの盛り上がりと合わせてお二人のお名前!

「伴・淳・三・郎! 三・木・の・り・平!」とお名前を一文字ずつタンギングして密かに呼び捨てにする快感の余韻に
浸りながら(何だかロボみたい…),お約束の鍵型の監督クレジットでやっと緊張から解放され,ここまで正座で
見ていたのを足を崩す… ,というのが小生の見方. (^^

以下,市川組寸評です.(敬称略)

石坂浩二
市川版金田一が,マンネリ感もなく,落ち着いていて成熟した感じがします. 敗戦後,宮内省,切り張り状,月琴,時計塔,
寄木細工,蝙蝠,密室,暗号… ,どのキーワードにも馴染む存在感に探偵小説フリークとして目頭が熱くなる… .
ポスタリゼーションやマルチ画面など,市川監督の十八番表現にも対応した,サイズの違う芝居に思わず唸ります.

岸恵子
今回の衣装は洋風.随所にご自身の意見を反映されたと思われる着こなしが見えます.
序盤の金田一が到着してからの広間でのシーンでセリフを言いながら,ずっと例のペンダントを触っている芝居が印象的.

中井貴恵
「あなたがこんな恐ろしいことを… 」「その小机の上に…」「細々としたものを…」の3セリフの抑揚がたまりません.

萩尾みどり
薄幸の佳人をやらせたらこの人の右に出る人はいないはずです.

常田富士夫
まさに今村監督と殿山泰司の関係です.無理やり出してます. ちょっとマニアックな話で,このシーンに,
市川監督がよく使うコマ落としという手法が登場しますが,この味わい,最近のノンリニア編集だと旨く出ないんです.
おそらく1秒間の24コマと30コマの生理的な感触の違いがこういうところに出るのでしょう.

加藤武
この映画での等々力警部役を見ているだけで,いかにこの作品で市川組が遊んでいるかが伝わります.さすが4作目です.

小林昭二
おやっさん!

司葉子
この作品ではいい感じですね. 芝居の力量と味が比例しないという実証例だと思います.

神山繁
「クジュウクと書いてツクモと読む!」と,あの髪型に秒殺です.
この方の持つ生来の品の良さを完全に否定するエロじじぃ役に本作のキャスティングの妙を見ます.

高峰三枝子
智子に墓参を目撃された時の浪花節調な芝居と着物での走り方が印象的.
今,こういう母性を感じるお顔や姿の女優さんがいなくなったなぁとつくづく思います.

沖雅也
「僕を信じて欲しい…」のお声,ええダシが出てます.

佐々木剛
ライダーは生き残ったか… . ミラーマンは可哀相に.

大滝秀治
市川版の金田一シリーズの中で,この方が一番ハマッタ役だと思います.
東小路に金田一といっしょにお目通り願うシーンの高貴なお方に決して視線を合わせないようにするところや
「エーッ」という驚き方,咳を我慢する芝居とどれを取っても絶品! 辞して後の「もちろん」というセリフ回しもチャーミング.

白石加代子
全開です.

坂口良子
もちろん全開です.

草笛光子
いい役をもらったなぁと思います.お声の魅力がとても活きています.

仲代達也
「馬?」と,東小路に「あなた本当なの?」との問いへの答え「はーい」の2つのセリフの抑揚に尽きます.気絶しそうです.

三・木・の・り・平!
嵐三朝役はこの人しかいません. だから「女王蜂」のリメイクは無理だと思います.

伴・淳・三・郎!
「粗茶をどうぞ…」 山本巡査よ,永遠に.

以上です. (^^

シャマラン監督の傑作は「サイン」だと思いますが,好きなのは「ヴィレッジ」です.
市川版金田一作品で傑作は「悪魔の手毬唄」だと思いますが,小生が大好きなのは「女王蜂」なのです.

・ブタネコのトラウマ
中でも〝「横溝正史」と「編物」〟が必見です!

15夜関連記事
2008.02.29 「男・三之介」 / 2007.07.01 「続・りかさん」
2006.08.03 「リカさん」 / 2006.07.18 「佐清」

Comments

  1. ブタネコ says:

    gaucheさん こんにちは
    このエントリーを拝読し 大変、勉強になりました。^^
    私は かねがね、もし機会に恵まれるのであれば 市川監督に「なぜ、シリーズの4作目に女王蜂をチョイスしたのですか?」と 聞いてみたいと思っております。
    というのは 当時、私は「女王蜂」という原作が 他の作品に比べて遜色の無い秀作だと思っておりましたけども、私の周りでは 横溝ブームなどで火がつくまで「獄門島」や「八つ墓村」を読んだ人は多かったけど「女王蜂」を読んだ人は極めて少なく、いわゆる横溝マニアな人ぐらいのものだったからです。
    逆に言えば「女王蜂」をチョイスするという事は 市川監督もそれ以前から かなり横溝正史にヤラレてましたね?と愚考したりする次第なわけで…^^
    三木のり平、伴淳三郎の両氏なくして リメイクは無理
    全く、同感です。^^

  2. gauche さん、こんばんは。
    私は『手毬唄』が一番好きなのですが、その次ぎがこの『女王蜂』です。
    ただ、金田一の登場の仕方(画的な部分で)はこの作品が一番好きです!
    >曲がAメロに戻ってきたタイミングで出演者のクレジットに入り,石坂さんのクレジットで初めてフォーカスイン
    あのバスにゆられている金田一に焦点があっていくところ、このクレジットとのタイミング、私は好きなんですよね~。
    キャストに関しては正におっしゃる通りだと思います。が、中井貴恵は、う~んどうでしょう・・・。会社側のキャスティングだと思うのですが、市川版の唯一の弱点だと思います。原作との違いは当然ですが、私は『頼朝伝説ですかぁ』のあのセリフまわし、もうノックアウトされました(笑)。
    ただそれがあっても、作品はイイんですけど。
    では、また。

  3. gauche says:

    金田一パワーブロガーのお二方,いらっしゃいませ.
    今まで通り,呼称はゴーシュでいいですよ.(笑)

    > ブタネコさん
    お粗末さまでございます… .
    〝かなり横溝正史にヤラレてましたね?〟は同感です. というか,そうであってほしい.(笑)
    4作目の企画意図が不明瞭なものの,結果的にそれが余り執着無く好転したともいえるのでしょうか.
    「女王蜂」も原作と比べると,いろいろと違いがありますよね.でも結果的にこの映画化が,
    原作の再評価に繋がったようにも思います.

    > イエローストーンさん
    おはようございます. この金田一の登場はかっこいいです.(笑)
    中井さんに関しましては,様々な好みもあるので一概に何とも言えませんが,原作で智子は,
    〝とにかく諸君があらん限りの空想力をしぼって,智子という女性を,どんなに美しく,
    どんなに気高く想像してもかまわない.それは決して思いすぎということはないのだから〟
    などと表現されていますから,かなりこのキャストにはいろいろと反応があったでしょうね.(笑)
    もともと金田一の作品には,上記にも掲載したような,通常現代では会話で使わない類の言葉が
    たくさん出てきます. そのこなれない言葉をセリフとして言うことの意味において,余りの手練を
    据えると,この共演陣では少々鼻につくことも想像されますし,基本的にこの智子は「お嬢様」
    でなくてはなりません. それと本来,映画は通俗に属する表現だと思います.
    こうした独特の世界観に,重厚な出演陣を推し進める時に,政治的な力が働いたにせよ,
    ファシスト政権下のロッセリーニよろしく,軽やかに,全く嫌がらず,むしろそれを楽しむような
    市川監督の温かい視線は,当時全く出演に乗り気でなかった中井さんにも注がれているのを感じ,
    何か心和らぐところがあります.
    「大道寺智子」と「原作を知らない人も見る」というどちら視点で見るかは,まさに好みなのですね.

  4. 恵美 says:

    はぁ~。さすがですね。
    今度「怪談」を観ましたら、これくらい立派な(笑)感想文が書いてみたいものですが・・・菊さまキレイ♪恐かった、で終わってしまいそうです。
    ぜひ、ゴーシュさまにも「怪談」の御感想をお聞かせ願いたく・・・。

  5. gauche says:

    > 恵美さん

    おはようございます. お立寄りいただき,ありがとうございます.
    「怪談」はチラシを読みました.15屋には映画鑑賞の際,圧倒的なプライオリティを誇る者が約1名おります… .
    その者の所望するのが「レミー…」だったりして,小生の意志がどこまで反映されるか.(苦笑)
    その昔,円喬という落語家さんがいましたが,猛暑の折,「鰍沢」を一席伺った時のお話で,昔の冷房もない寄席で,
    話途中にお客が一枚羽織ったというものがあります.

    > 菊さまキレイ♪恐かった、で終わってしまいそう
    確かに,ポスターの菊之助さんは美しい… .(笑)
    最近,映画のお仕事に意欲的ですね.血でしょうか.見るからに恐そうというものでない,
    日本の「うすら怖い」をどう表現するかは演出も役者も腕の見せ所だと思いますよ.

Submit a Comment