15夜通信 / 映画の咆哮

amazon宮崎 駿監督     音楽 久石 譲
原題「天空の城ラピュタ」
英題「LAPUTA Castle in the Sky」
1986.8.2 日本公開 アメリカ(2008) / 124min カラー
/ Aビスタ by G-Tools


昨年暮れに,家人が地元の 中央公民館の催し に参加した折,
そこで披露された歌が「君をのせて」でした… . (^^

そして年明け,久方ぶりに本作品を見直すと,いろいろなことを
思い出してしまい,思わず筆をとっております… .


折に触れ,小生が今のようなお仕事をしているのは,市川崑監督と宮崎駿監督の影響下にあることは書いてきました.
学生の頃はアニメーションの世界で食べようと思っていたし,実際に東京ムービー新社の試験を受けたり,ジブリに
手紙も送ったりしています… .
思えば,市川監督も最初はアニメーションの人でしたね. あのオープニングクレジットのレタリングは,
おそらくその流れの名残りでしょう… ,もちろんご本人の好みでもありますが. (^^

宮崎監督作品の小生の1番は 「風の谷のナウシカ」 です.
今は遠くにいる小生の一番古い大親友と映画館に見に行きました… . 「未来少年コナン」「カリオストロの城」 と知らずうちに拝見し,
それぞれにファンではありましたが,宮崎監督の名前を初めて意識した作品が 「風の谷… 」 でした.

そして傑作はと問われれば,「千と千尋の神隠し」 です.
これが公開された年は,小生の人生にとっても一生忘れられない年で,その偶然の一致にも奇妙な縁を感じている作品です.
しかしこの2作品は黒澤明監督の作品同様,手に余るので,この15夜では未だお取り扱いしておりません… . (^^;

桃の節句の勢いとちょっぴりお酒の力も借りて,この 「天空の城… 」 を15夜で取り上げるのは,数ある宮崎作品の中でも
最も素晴らしい名シーンがあるからなのです. これは100%小生の好みなのですが,でももし映像の世界,映画の世界を
志す人には是非みてもらいたい… .

そのシークエンスとは中盤に出てくる,ヒロイン 「シータ」 を主人公 「パズー」 が救出する一連の場面です.

正確には,囚われのシータが要塞の中で昔のおまじないを教えてもらったことを思い出している場面から,
救出して煙幕で巻いて見事逃げ去るところまでの10分ほどのシーン.

通常,宮崎監督は一人称を 「意識して」 作品を作ります.

観客は主人公と同じ時間軸を生きることができ,感情移入しやすい. しかし,作品の中でハイライトな部分や
クライマックスになると急に,多層な時間軸の構造を意図的に作って臨場感を煽ります.
この辺りのさじ加減が,おそらく宮崎演出の真骨頂なのだと思います.

このシークエンスも5本の時間軸が走ります.
シータ,パズー,海賊,軍隊,ムスカ … ,それぞれの思惑がランダムに交差して,しかもそれがシータの救出劇の
一点に向かって集約していく作りはまさに秀逸. そしてそのカット割りの見事さは,今回年始に見た時ももちろん,
初めて劇場で見た時から,毎回見る度に鳥肌が立ちます.
基本的にシータのシーンを 「静」,その他を 「動」 という描き方もコントラストが強いのを好む宮崎監督らしいところ.

当時は子ども心に,この一連のシーンが何故これほどまでに素晴らしいのか,秘密を知りたくて,お小遣いをためて,
コンテ集というものを買いました. コンテには絵の割りからアングル,タイミングの秒数の指示まで細かくありましたが,
それを熟読し,後年ビデオで見直した時にため息をついたのを今でも覚えています.

「この人は頭で割っていない… 」

これが小生の辿り着いた結論でした.
あの救出劇のシーンは,もう宮崎監督の頭の中で猛烈な勢いで走っており,それをコンテ上に移し変えただけなのでは
と思いました. ここでこうして,カメラはこう受けて… ,なんて考えていない. 少なくともこのシークエンスはそうだと思いました.

それを小生の中である意味証明したのは,92年作の「紅の豚」です.
サボイアの修理が上がって工場からテストなしで離陸するシーンとクライマックスにサボイアとカーチスの一騎打ちのシーンですが,
この「天空の城… 」の救出劇ほどの臨場感を感じませんでした. これは宮崎監督ほどの人でもそれが毎回再現できる
ということはなく,また満を持した 「紅の豚」 企画が 「天空の城… 」 の頃に作れていたらあのドックファイトはどうなったのだろうか
という想いが,頭を駆け巡ったことを今でも覚えています.

そして映像,映画を志す皆さん.
この全ての場面が 「手持ち」 などというカメラワークなどなく,FIX,PAN,TILT,横移動,というオーソドックスで適材適所な手法が
「カット繋ぎ」 により構成されていることをきちんと注目して見てください.

つまり,主旨に沿うカメラアングル,カメラワークがあれば,奇を衒うことなく,スピード感,臨場感は作り出せるということなのです.

奇を衒うということで言えば,2カットだけ.
外に出たロボット兵の撃つ 光子力ビーム(笑) でハイライトの走るシータの顔のUPを真正面から撮ったFIXのカット.
もう一つはその後,助けに来たパズーの最初の救出トライシーンで,カメラは助けるためにシータに手を伸ばすパズーの後ろから,
それを気持ちカメラも横移動させながら,パズーを下手から上手に動かし,パズー越しでロボット兵とシータを視覚上で
交差させるカット.

1つめは,人の顔を真正面から目線で撮るのはセオリーには反します.
しかしこれも宮崎監督は確信犯で,ナウシカの時にも,アスベルのガンシップがナウシカ達の乗るバカガラスを撃墜するシーンでも
その攻撃を止めるナウシカの心の叫びで同じ手法が使われています.生理的に拒否のある人も少なくない手法ですが,
一応ネライになってます.
2つめは,こういうカメラアングルって日常的な視線ではありえないでしょう?
でもいかにも活劇っぽい… ,と言うかやってみたい. ^^
こんな絵,実写でやろうと思ったら大変だ! カメラ吊っても,パズーが上手へ動いていく過程でパズーの右手にカメラが
当たってしまうし,しかも前ピンの望遠(長玉) だし… . でもそういう通常では,奇を衒う部類に入る手法が,ことごとく心に残り,
一連のシーンの感情の流れを乱すものになっていないところに,小生が言うのも僭越なのですが,宮崎監督の天才的な勘働きを
感じますし,「頭で割っていない」 とは,つまりそういう意味です.
素晴らしいです.

素晴らしいと言えば,この一連でのフラップターの動きに触れない訳にはいきません.
ローアングル,俯瞰,フレームin-out,BG動画,細かな仕草,流線等,あらゆる手法を駆使した「風を感じる」演出は,
もちろん無意識でしょう. 少し前にDVDも出ました押井守監督の 「スカイ・クロラ」 での戦闘機の演出とそれを可能にした
様々な技術には目を見張るものがありましたが,そこで感じる風を 「ドライ」 とすれば,宮崎監督のそれは 「ウェット」.
音楽の久石譲さんとのマッチングも,まだまだ監督と日が浅いところの緊張感とロデオに振り落とされまいとするタイトロープな,
映像とサントラのシンクロを魅せてくれます.

当時45才の宮崎監督の卓抜した 「動きの捉え方」 には,洗練,老練さを増した最近の作品よりも,もう少し荒さがあり,
その未完成な魅力がこのシークエンスには満載です.

古くからの悪友K と学生の折,この頃の宮崎監督の作品をよくハンマー投に喩えておりました.

「未来少年コナン」 でハンマーを持ってサークルに入り,「カリオストロの城」 でハンマーを頭上で回し始める.
そして自身も回転しながら少しずつ前に移動し,サークルの淵で最高速になったハンマーを投擲した瞬間が 「風の谷のナウシカ」.
ドンッと着地して 「となりのトトロ」. OKの旗が審判から揚がって 「魔女の宅急便」 という流れ. (^^;

では 「天空の城ラピュタ」 は何か.

それは投擲の瞬間,全ての選手が空に向かってするあの咆哮なのだと.

Comments

  1. シータ救出のシークエンスは、アニメ映画史上屈指の名場面ですよね。最高です。
    何度観ても鳥肌ものですよ。

  2. gauche says:

    > samurai-kyousukeさん
    「すり抜けながらかっさらえ!」
    今は亡き初井さんのこのセリフに毎回シビレマスね. 史上屈指… ,まさにです.

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