15夜通信 / 驚愕のひととき

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アレクサンドル・ペトロフ監督
原題「Моя любовь」 邦題「春のめざめ」
2007.03 日本公開 ロシア 27min カラー / Aビスタ
原作: 「愛の物語」イワン・シメリョフ 音楽: ノーマン・ロジェ
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最近,15屋のテレビは台所に移動した… .
何故かは,黒糖焼酎なしには語れない話なのでここでは割愛する. (^^;
その新台所TV劇場の第1回上映作品が本作品でした.


まずこの作品が短篇でよかったです.

小生には15屋内から「いいかげんにして」と呆れられる癖があります.(-_-)
それは映画を見ていて,余りに集中し過ぎると息を止めてしまう… ,そして酸欠になるというもの.

「溝口健二だって芝居に集中し過ぎると体が震える癖があってクレーンから下ろされたじゃないか…」と反論しても知らんぷり.
いずれにせよ,この作品がもし通常の劇場尺であったら,酸欠で運ばれていたかもしれない… . (^^;

この作品全体に漂う,ある時代の空気や選んだストーリーの素晴らしさ,その映画への変換における的確な演出など,
挙げたらキリがありません. それほどに衝撃的でした.
昨今は,テクノロジーばかりが話題になる映像業界ですが,その表現手段も「想いや念」があってこそのものでしょう.
その核になる部分の玉の大きさがどんどん小さくなっている気がします. 直接的で,幼稚で,安易で軽いもの… ,
そのすべてが悪いわけではありませんが,大人が大人である映画は稀少と言わざるをえません.

この映画は,ある思春期を迎えた少年の物語ですが,その描かれている多層な構造と,見た人間の立場や環境,
それに心持ちで如何様にも解釈ができるこの作品は,まさに成熟しています.

そして,その驚くべき手法にも唸ってしまう.
ガラスの上に油彩で手を使って描いた絵を1コマ1コマ撮影していくという,つまりいわゆる撮影原画が残らないこの手法で,
あれだけ濃密な絵の構成とウネルようなカメラワークを実現するこの監督のイマジネーションには驚嘆してしまいます.

この映画を見終えた後に,ふと過ぎった作品があります.
ユーリー・ノルシュテイン監督 の「話の話」です.
その衝撃の度合いが拮抗していました.

15屋でアフタヌーン・ティをしながらその話をしつつ,特典映像にも手を伸ばしてビックリ.
ペトロフ監督は,あのノルシュテインの弟子だったのですよ!
やはり持つべきはいい師なのですね. (^^

この映画に描かれているような多面的な人間解釈や本質的なものの捉え方に,現代の日本人はもっと触れるべきでしょう.
言葉通りではない,その向こう側にある考えや葛藤を推し量ること. それが「大人になる」という本当の意味であり,
それに続く価値観が 「やさしさ」 だったり 「色気」 だったりするわけです.
そのプロセス無しにその価値観のみを安売り,受け売りする昨今の風潮は本末転倒… ,いわゆる「メッキ」ということですね.
そしてその本物をどのように丹田へ下ろすかが,子どもたちに伝えなければいけないことのように思います.
そして必要なのは,そのことだけでいいのではとも感じます.

桜も終わり,しかしまだまだ春爛漫な今日この頃,皆さまはいかがお過ごしですか. (^^
15屋では,たんぽぽや白山吹,アネモネ,ワスレナグサが奇麗です.
この時期のこの時間というのは,まさにつかの間. 梅雨になると毎年そう感じてしまいます.
先日,15屋でも玄関に,端午の飾りを始めました. この時期のキーカラーは緑,そしてキーワードは風.
その鮮やかな色彩美も合わせて,春うららな午後のひとときをロシアからの風に吹かれてみてはいかがでしょうか?

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