15夜通信 / ロシアの白熊

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ニキータ・ミハルコフ監督 1999

原題 「Сибирский Цирюльник」
英題 「 The Barber of Siberia 」
邦題 「 シベリアの理髪師 」
2000.9.30 日本公開 ロシア(仏/伊/チェコ) 161min カラー / シネスコ

ニコリ・ボルコフの話ではない… .

小生ごときが,とやかく言える作品群ではない… が,
X’masに友人が〝ロジャーグラート・カヴァ・ロゼ・ブリュット〟
を持ってきました . 今回はその勢いを駆ってということで .


最近,仕事で民生確認用に3年ほど使ってきたSONYモニターが退役して,普段使いのモニターへと天下り .
民生とはいえ,カラーバー調整済みのTrinitronだけに意外に色は出ている… .
ということで,仕事のモグラ抜けの昂揚もあり,鑑賞しまくってます.

その中でも,本格派が見たいということもあって,まず手に取ったのがニキータ・ミハルコフ作品でした .

映画としての完成度もさることながら,艶,香りという点でも,余人を許さぬ映画監督だと思います.
先に別ログでも書きましたが,小生にとってはエミール・クストリッツァと双璧という位置づけです.
黒澤明監督が一目置いたのも,作品をご覧になればおわかりいただけるでしょう.

スタニラフスキーやチェーホフ… 正当なロシア演劇の末裔とも言うべき,ミハルコフ監督 .
同じ理論を使いながら,なぜ日本の有名著名な演劇集団が同じ結果を出さないのでしょう.

それまで漠然と抱いていた疑問が,この監督の作品を見るようになって,より強く考えるようになりました.
日本の既存劇団の芝居の決定的な過ちは,セリフの抑揚に重点を置いた点です. 重点は,その解釈と感情の流れを掴むことで,
芝居はそれを体の動きで表現することから始まります. 体の動きの解釈に無理がなければ,その動きの中でセリフを放てば,
自然に抑揚がつきます. これは,普段の生活の中で人々が自然にやっていることですものね. それが日本では,
セリフだけが先走るので,抑揚を顔の上げ下げでもリズムを取る役者が多いんですよ. そんな仕草は,日常の中では誰も
やっていないことでしょ?

amazon「シベリアの理髪師」 には,主人公の男と女の人生が,大河のごとく
流れています. この人物はこういうものの考え方をする,するとこういうもの言いをするだろう,
動きはこんな動きや仕草がある… とひとつひとつの細やかな解釈の積み重ねを感じます.
でもここまでは,きちんと丁寧に作れば,たどり着けた映画は他にもあります.
しかしここから今一歩踏み出す映画というのは,そんな人間たちを軸に,その流れとは
全く関係のない,全然違う時間軸との遭遇と翻弄を描いた映画だと思います.
レンズの先にあるもの,それは度し難い人間でなく,そこを取り巻く大きな流れそのもの
なのではないでしょうか.

この作品や 「太陽に灼かれて」 は,まさにそんな映画なのですよ.
いやぁ,映画って凄い!

ミハルコフ監督が大変ロマンチストだと思うのは,どんな人間にも幸せの絶頂を用意していることですね.
それもシナリオの一手法と言ってしまえばそれまでですが,撮り方を拝見していると,それだけではない視線の温かさ
を感じます. またそれを体現するという点で,主人公トルストイ役のオレグ・メンシコフという人は素晴らしい役者です.
その力量の高さと滲み出る品格には,ため息すら出てしまいますよ.

また「シベリアの理髪師」では,ロシアとアメリカの考え方や手法の違いを縦糸に話が構成されています.
しかしミハルコフ監督は,それに優劣つけるのでなく,双方の陰陽を表現しながら,根本のところでは同じ人間である
のだという視線で見つめます.
悲しみや喜びを感じるところの原点は 「愛」 でしかないという点で変わりはないのだということ… .
話の中盤,決闘で負傷したトルストイの病室をジェーンが訪ねるシーンがあります.本作品を何回も見ていくと,
このシーンにかけた監督や俳優の想いが迫り,胸が熱くなっちゃうんだよなぁ.
おそらく監督も,このシーンが二人の幸せの絶頂であるという認識で撮られたと思います.

いよいよ年の瀬ですね.
家で過ごす時間が長くなるこの時に,まだ見ていない方はぜひお手にとってみてください!
できれば最愛の人と… ,でなければ未来の最愛の人を想い,しっとりとした年末年始を迎えるのも一興と存じます.

・オレグ メンシコフ ファンサイト
監督スタッフ以下の力量もさることながら,この役者さんがいなければ,「 シベリア~ 」も「 太陽~ 」もありえなかったでしょう.
類稀な表現力は,日本の役者さんにも見て欲しい. このサイトはオレグ・メンシコフの「 完璧 」な情報源です.

Comments

  1. nakko says:

    あけましておめでとうございます。コメントさせていただくのは初めてですが、今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
    「シベリアの理髪師」
    じっくりと創り上げられた贅沢な映画ですよね。こういう、映画らしい映画を見ると嬉しくなります。時間と才能と資金という土壌の上に豊かに綴られる物語。序盤からすぅっと惹きこまれ、最後までゾクゾクしながらスクリーンを見つめていました。
    映像も音楽もとても美しいのですが、何よりも、オレグ・メンシコフと出会った作品として、いつまでも心に残り続けるだろうと思います。ファンサイトの紹介までしてくださって本当にありがとうございました。

  2. gauche says:

    > nakkoさん

    本年もよろしくお願いします.
    nakkoさんのサイトは,その豊富な情報量と愛情に満たされていて,本当に感服します.
    今年はいよいよ「太陽に灼かれて2」が公開するかもしれませんね! 楽しみですが,少し恐い感じもします.
    あの話の続編をどう作るのか… . オレグ・メンシコフがどう演出されるのでしょう.
    「太陽に灼かれて」について書けるよう,精進を続けます.(笑)

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