ビリー・ワイルダー 監督 / ジャック・レモン 主演
原題 「SOME LIKE IT HOT」
邦題 「お熱いのがお好き」
1959.4 日本公開 アメリカ / 121min モノクロ / Eビスタ
いやぁ,映画って本当にいいもんですね… .
この言葉ってビリー・ワイルダー作品を見て出たのが最初なんじゃないかしらと,思わず勘ぐるほどに,
この監督の映画にぴったりのお言葉でしょう?
だからポスターが赤というわけではないのですが,いわゆる至高のウェルメイドともいうべきワイルダー映画はシナリオの教本!
映画の3大要素を 「酒」「音楽」「いい女」 と定義した偉大なるビリー節を語るにはシラフじゃできんと,
ちょいと傾けつつのお許しを… .
ということで,まだまだ残暑をダシに一杯いけるね…と,酔うほどにワイルダーにも一筆いけそうな誇大妄想を利用して
書いております!
プロフィールに好きな映画と連ねるにあたり,歯を喰いしばって書かなかった作品に「アパートの鍵貸します」があります.
この作品に関してはもう言わずもがなですし,またこれだけ広く愛されている映画もないでしょう.
それと比較すると本作は,有名ですが,比較的話題に上らない. 見たことがある人も面白いとは言いつつも,ワイルダーと
言えば他の作品をあげることが多い気がします.
何故でしょうね?
小生も映像の末端で生きておりますが,つくる過程が画面には余すところなく出てしまうことをいつも感じております.
よく言う現場の空気というものですが,それを日本では勘違いされている方が多く,馴れ合いが横行しているのもよく目にします.
その現場の空気というもので見るならば,この「お熱いのがお好き」は最悪です.
とにかく旨くない. 具体的なことは省きますが,その雰囲気が静かに伝わってしまっているのではと思えば,
タイトルよりも涼やかな反応にも得心のいくと思います. もちろん作品的に破綻しているところはどこもありません.
プロ中のプロの仕事ですから,シナリオ,撮影,芝居,編集,ダビングとどの部分も勉強になります. しかし,そのいかにも
楽しげなプロットの作品が,楽しく作業ができないことほどツライものはありませんね.
そのようにできた映画でも,ある人は笑い,ある人は喜ぶものに仕上がっているところに,この映画の本当の凄さがあると思います.
これは,仕事で映像にたずさわる人なら,どのくらいスゴイかを感じていただけるでしょう!
ビリー・ワイルダーと言えばジャック・レモン !!
この作品をある意味救ったのは彼だと思います. その「芸」と言っていい芝居の力量は「アパートの鍵貸します」で
皆さんもご存知の通りです.
あの作品で主人公のバドが自分の部屋に戻り,部屋を片付けながら夕飯のTVディナーを準備しつつ,やがて出来上がって
ソファに腰を下ろし,TVを見ながら食べるというくだりを初めて見た時に,小生は泣きそうなほど感動したのを覚えています.
それは,そのシーンのどの動きも,どの芝居も,もう何年もそこの住人である体の動きと部屋の距離感を体現していたからです.
これは役者を勉強している人ならわかることだと思いますが,できそうでできない至芸に近いものなんですね.
日常で言えば,夜にアパートに帰ってきて真っ暗でも電気のスイッチを探り当ててすぐ点けられるみたいなことですが,
芝居でこの動きを自然に表現するのは誰でもできることではないんですよ. その意味でも,また現場のムードメーカーとしても,
この作品に限り,監督がいつもよりもより頼りにしていることが切実に出ているように感じます.
ですから,厳密にはこの作品の主役はカーティスとモンローなのですが,現場の主役はレモンだと
監督は感じていたのではないでしょうか.
そうした役者のいる監督の幸せは推し量るべくもないでしょう.
溝口健二と田中絹代. 黒澤明と藤原釜足,森雅之,そして三船敏郎. 今平こと今村昌平で言えば,北村和夫や殿山泰司,
小沢昭一というところかな.
とにかく主役ではなくても,必ず自分の作品には役をつくる,またそうしたくなる役者との出会いは監督の醍醐味の一つですな.
ビリー・ワイルダーの黄金期も,そうした素敵な出会いの産物なのだと思います.
あともう一つ,この監督で語れるのが「カクテル」の使い方ですね.
カクテルと言えば,日本ではどこか気取ったもののようにとらえがちですが,彼の作品では労働者の飲み物,日本で言えば
焼酎のような扱いで出てくるのが何ともカッコイイんですよ. 確かに「ベースを割る」というスタイルは日本のオヤジ焼酎そのもの.
いいお酒を長く楽しむという非常に理にかなった飲み物なんです.
「アパート―」では マティーニ.添えるピンで刺したオリーブをずらりと並べることで飲んだ時間の経過を見せ,フラれたバドの
ヘコむ様を表現していました. また,まだこれが上映された折,日本ではカクテルなどそれほど知られていませんから,
昔の翻訳で見た時にフローズン・ダイキリを「冷えたダイキリ」と約していたのが印象的でしたね.
本作ではマンハッタン. 禁酒法時代の話というところにくすぐりがありますが,その余りに有名なシーンは何回見ても楽しいです!
別々に隠し持っていたバーボンとベルモットに,シンバルの上で砕いた氷を混ぜて水枕みたいなものでステアする… まさに
映画的なお酒の見せ方です. そしてそれを飲む,もの凄ーーーくハイテンションなジャック・レモンの芝居が絶品 !!
前回で旧作10本で,これで11本目の15夜になります.
少しいろいろ考え,反芻しました. そんな中で,何となくこの映画を久々手に取ったのですが,ジョー・E・ブラウン演じる
富豪のボンボンがラストに言うセリフに救われました.
「欠点は誰にでもあるさ」
・愛すべき映画たち
どちらも「 アパートの鍵貸します 」を通して,ビリー・ワイルダーの魅力を余すことなく伝えていますよ. 必見です!・お楽しみはこれから!
本作の面白さだけでなく,B・ワイルダー作品の宝庫です!
gaucheさんは、この映画の「現場の空気」が最悪と感じましたか。私はまったく逆で、最高!と感じました。
確かに撮影に遅刻し、NGを繰り返すモンローにスタッフや他のキャストは大迷惑で、イライラはあったでしょう。でも、みんな心から楽しんでいるように見えます。DVDのおまけ映像でも、老人となったトニー・カーティスや女性バンドメンバーの何人かが、楽しそうに撮影の思い出を語っているのをみてもやはりそう感じました。
たぶん目のつけどころが違うのですね。
こんばんは。
TB&コメントありがとうございました。
うちの記事URLを紹介していただき、恐縮です。
ビリー・ワイルダー監督の映画は他にも何度も見直したくなる作品が多いですね。
「お暑いのが~」然り、「第十七捕虜収容所 」「情婦」もまた久々に見てみたいです。
時間がもっと欲しい~です(^^;)。
TB&コメントありがとうございました。
ほんとにこの映画は完璧ですね。
記事中にありました、帰宅時のジャック・レモンの演技、あれぞまさに至芸ですよね。
「フローズン・ダイキリ」、昔は「冷えたダイキリ」だったんですね!(笑)
初めて知りました・・・。
ビリー・ワイルダーの作品は、ほんとに思わず「いやぁ,映画って本当にいいもんですね…」と呟きたくなりますよね。
こういうのって、ワイルダーの他は、やっぱりお師匠さんのルビッチ作品もそうですね。
> まいじょさん
初めまして. お立ち寄りありがとうございます.
M・モンローという名前とその容姿がこれほど有名にもかかわらず,意外に彼女の映画を繰り返しご覧になる方が
少ないことにある寂しさを感じます. 彼女の最大のヒット作である本作も含めて,もっといろいろと見ることのできる機会を
作ってほしいですね. 「七年目の浮気」の年にお生まれの方…大ベテランの方ですね! 今後ともよろしくお願いします.
> モカ次郎さん
いつもお立ち寄り頂き,ありがとうございます.
何度も見直したくなる…同感です.
エンターテイメントという一言で片付けられない監督ですね. 何回見ても新しく発見があり,また見た年齢によっても
感じ方が変わる.そんな様々な人々への優しい視線を持つ大人の映画が現代にも欲しいです!
それと確かに時間も欲しいですね.(笑)
> micchiiさん
ご来訪ありがとうございます.そう冷えたダイキリです.(笑)
ルビッチも含めて,人間をこうだと決めつけた描き方をしないところに懐の深さを感じずにはいられませんね.
またセリフで芝居を引っ張るというところもアメリカというよりヨーロッパ的です. シーンごとに,セリフと体と心の
どこに芯を置くかという高度な解釈が行われていることに脱帽!
日本ではその三位がイコールになってしまうことが多いから大人を感じないのかもしれませんね.
ゴーシュさん、先日はどうもありがとうございました。あの後だいぶ飲みすぎましたが、無事帰りました。
あんな楽しいお酒は久しぶりです。また是非やりましょう(^O^)v
> た(・∞・)vさま
29時まで行かれたということで(笑),翌日仕事がなければと思いましたよ.
また楽しく行きましょうね!