15夜通信 / つるんでいこうぜ


ショーン・ペン / ニコラス・ケイジ 主演

原題 「Racing with the Moon」
邦題 「月を追いかけて」
1984 日本未公開 アメリカ / 109min カラー / Aビスタ

まず感じる,そのしっとりとした柔らかい空気と何気ないけど心に残る風景… .


この心地よさはどこかで覚えがと思えば,シナリオは「 恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ 」のスティーヴ・クローヴス,
音楽はデイヴ・グルーシンというシドニー・ポラックのファミリー… ,なるほどそういうことですか.

人には,それぞれ原風景というようなものがあると思いますが,そこに触れると,人は気持ちのひだに強い波動を感じます.

この波動の正体は,音や色,匂いといった極めて原始的なものだったりしますね. この映画には,小生の原風景の一つがあります.
どこか人をぞんざいにしたり,人の気持ちを傷つけている時がある小生. その反動で,映画という人の気持ちの渦みたいなものに,
強い反応を示すのでしょう.自己弁護みたいなものです… .

この5,6年で小生の人生は激変しました.
その中で一番の変化は,人と人の関わりあいが永遠でないことを,遅まきながら知ったことでしょうか.
この映画の舞台は出征間近の若者が暮らす,アメリカの片田舎です. 終始,若者の勢いや足りなさを優しい視線で包む
この映画の背景には,これから出て行く,しかも行ったら帰って来れないかもしれない不確かな未来が横たわっています.
その漠然とした不安や苛立ちを,とても自然な芝居で魅せるショーン・ペンとニコラス・ケイジ.

この二人を見ていると,人生に本当に必要なものは勝ち負けではないのだと思えます.
また,こういう仲間を持つことの幸せをかみ締めずにはいられませんな.
最初のボーリング場のバイトシーンで,この二人が気の置けない付き合いだとわかります. そして,S.ペン演じるヘンリーが,
一目惚れしたE.マクガヴァン演じるキャディと初めて会話を交わすバーのシーンで,横にいるN.ケイジ演じるニッキーの
ニヤついた顔を見る度に,小生は友人たちの顔が浮かびます.そして,無性に会いたくなってくる….
そして,ヘンリーのキャディに対するアタックシーンのひとつひとつが,とても清々しく,こちらまで応援したくなりますよ!
こうした積み重ねていくプロセスを大切にしているところがこの映画の気品で,何でも一足飛びに行くスピードに価値を見出す
現代と対照的なところです.

しかしこの映画では,そのプロセスさえ許されぬ彼らの未来に,ある種の切なさを覚えるのでしょう.
十分な時間と金銭的な豊かさを構築した現在の若者の恋愛の中にも,このようなゆるりとした,流れを大切にするプロセスが
あるものかなと想いを巡らせます… あってほしいですね.

この映画の役者たちは,心の中と表面に出ている部分とを巧みに描きわけて,つまりそれは私たちが日常的にしている
「芝居」をそのまま体現しているところに,高度な解釈を感じます.
当時24才だったS.ペンは設定17才の役で,同学年という設定のN.ケイジ20才よりも若く見えますね.
E.マクガヴァンも,一目惚れの対象に足りうる,しかし好きな人のためなら悪事も辞さぬ情熱的な,人間の多面性を涼やかに
演じています. こうしたシナリオとそれを解する演出と役者に感服ですが,この見終わった後の清々しさと切なさは,
今の日本映画に絶滅しかけているジャンルだと思います.

日本では戦争を題材にする時に,その悲しさや歴史的解釈が先行してしまい,ほら泣けーという類が多いですね.
もっと映像表現には,詩的で艶のある解釈の方が合っていると思うのですが,なかなかそうした出会いは少ない.
ホラーなんかでも,明らかにそれとわかる音楽だったり,芝居だったり,また少し暗めの撮影だったりとそのままやんか
という感じですもの. 「エクソシスト」を見ると,撮影や芝居そのものをもっとノーマルで,普通のドラマを撮っているのと
同じルックで掴んでいます.

叱れている時にも頭のどこかで「 早く終わんないかな 」と思いつつ,顔は神妙な顔つきで聞いていたり,偉い人の話をしたり顔で
聞きながら「トイレにいきたい…」と我慢してたりするのが人間です. そういう人間に対する丸みのある解釈が著しく欠如して,
頭と顔の表情がイコールな芝居ばかりが横行している今日この頃… .

今回書くにあたって,改めて解釈しようとしましたが,本当に難儀しました.
というか,まだ文字で結論できぬところで書きなぐっています.
そして何度となく書き直しつつ,やっとの思いでここまできました.小生の人生でも余りなかったことなので,この事実に狼狽します.
それは,未完成なものを見せる羞恥と見せかけの自尊心の狭間に,自分の身の置き場に窮したからですな… .
とにかくこの映画の面白さを伝えたい,良さをわかってほしい,そう思って言葉を連ねるほどに,当初の自分の内に感じたものから
どんどん遠ざかっていく. そして,近づけば近づくほど,自分の足りなさを文字面で露呈しなければならないことに気づきました.

ですから,書き始めた時と今とでは想像もつかないような文章になっていますが,そのたどり着いた小生の拙い表現として
「原風景」に落ち着いたところです.

根源的であるがゆえ,装飾の類をすればするほど,違うものなるのだと思うに至りました.
おそらくこの解釈ができるには,自分がしてもらった,つまり心配をかけたり,かけられたり,また体制にかかわらず,
諦めずに寄り添ってくれる仲間や腐れ縁の有無にかかっているのでしょう.

小生にはそうした仲間がいます. だからいつか必ず,この作品の明快な解釈にたどり着けると確信しています.
親以外にどれだけそうした人がまわりにいるかを自覚することが人生の大事だとすれば,
それがこの映画の解釈なのだと思います.

・蟻銀さんブログ
ショーン・ペン出演の作品が,きれいに紹介されていますよ!

・How About Nicolas Cage?
いやぁこういうサイトがあることに感動!

・あいりのCinema cafe
書くときにこの作品と迷いました!とても素敵な映画です

Comments

  1. 蟻銀 says:

    ゴーシュさん、この度は私のブログにお越し頂き、又こんな風に紹介もして頂き、ありがとうございました。
    私も、実生活の中での心無い行いや、失敗したなぁと思った人間づきあいetc、映画を観ていてふと気づかされることがあります。心が洗われる為でしょうか。
    又、お邪魔します♪

  2. あいり says:

    ゴーシュさん
    ブログ記事にリンクをありがとうございます。
    私のはあっさりした感想で、書き直したいくらいです。恥
    >>親以外にどれだけそうした人がまわりにいるかを自覚することが人生の大事だとすれば,それがこの映画の解釈だと思います.
    この映画は見ていないのですが、伝わってきました。
    私にとっての原風景ってどんなだろう。
    そんなことも考えました。

  3. gauche says:

    > 蟻銀さん
    お立ち寄りいただきまして,ありがとうございます.

    >> 心が洗われる為でしょうか。
    そう思います.洗っても洗っても,また汚れるんですが(笑),その汚れは洗えばいいのだと肯定してくれるのが映画なのかな.
    アナーキーなイメージのS・ペンの輝きは,本作品のようなものが下地にあるからと思いますね.今後ともよろしくお願いいたします.

    > あいりさん
    素敵なコメント,いつもありがとうございます.

    >> 私にとっての原風景ってどんなだろう
    小生がそういうことを考えるようになったのは本当に最近で,甘ちゃんな人生を歩んできたと,つくづく未熟をかみ締めております….
    人がルーツを考え,またその出た答えを否定せず,受け入れることを「勇気」と呼ぶのでしょうか.
    「月の輝く夜に」は,家族の薦めで再見してファンになりました.本作と合わせてN・ケイジの魅力満載ですね!
    オペラ座のデートは羨望です!!

  4. モカ次郎 says:

    こんばんは。先日はコメントいただきありがとうございました。
    映画以外のブログもいくつか立ち上げておりまして、TB・コメントのレス怠っております(^^ゞ。
    この映画観てないです、あ、未公開でDVDも出てないんですね。
    ん~いつもながらゴーシュさんの文章深いです。文学です。私には書けない世界です。
    ちなみに私事ですが、黒澤ブログがYahoo!登録されました。あんな稚拙なブログがですよ(恥;)
    今後ともどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m。

  5. gauche says:

    > モカ次郎さん
    お越しくださいまして,ありがとうございます.
    いい作品なのですが,余りに知名度が低いので思わず紹介してしまいました.
    DVDもあるのですが,レンタル屋さんにはVHSがほとんどでしょう.

    >> Yahoo!登録されました。
    なかなかの難関だと聞いておりますが,よくぞ突破されましたね.ご謙遜されていますが,
    小生がなかなか黒澤作品のことを書けない理由をご存知でしょう!?
    いつも過大なお言葉を頂戴いたしますが,基本的に右脳で生きようと思っておる人間で,抜け穴だらけの人生ですので,
    どうぞまたお気軽にお立ち寄りくださいませ.(笑)

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