15夜通信 / 話は全部聞かせてもらった

石井 輝男 監督 / ソニー千葉 主演

邦題 「 直撃!地獄拳 」
英題 「The Executioner」
1974.8.10 公開 東映 87min カラー / シネスコ
邦題 「 直撃地獄拳 大逆転 」
英題 「The Executioner Ⅱ:Karate Inferno」
1974.12.28 公開 東映 86min カラー / シネスコ


フィルム撮影のフレーム画角には規格があって,基本的にその中から選べるようになっています.

スタンダードと呼ばれる1:1.37.これはテレビのサイズにほぼ一致します.次にビスタと呼ばれるサイズ.
この画角にはいろいろありますが,アメリカンビスタ1:1.85 と ヨーロピアンビスタ1:1.66 が代表的.
そして最後にシネマ・スコープ,略してシネスコ.1:2.35という,びろーんと横に長い映画特有のサイズです.

最近はHDの撮影が増え,画角の規格も変わりつつありますが,このシネスコの撮影,上映にはひと手間かかります.
詳しいことは省きますが,なかなかややこしくて,今では日本でこのサイズで撮影できるスタッフは少ないのではと思います… ,
というサイズで,本作品が作られているというだけでも,この時代の大らかさとまだまだ体力のあった日本映画を偲ぶことが
できるでしょう!
このような映画を1年に2作,しかも夏休みと正月映画 !!

少々ウンチクから入りましたが,まず本作品が黒澤映画と同じサイズで撮られているということに感動します.
この企画をこのサイズで可能にした石井輝男監督以下制作スタッフのプレゼン力に脅威を感じずにはいられません.
火傷しそうな映画,まさに右脳全壊… ,いやいや全開なその猛烈な勢いに呑まれちゃってください!

この映画自体,そのカルトな方角より意外と認知度が高く,映画を比較的ご覧になっている方にとっては,
それほど珍しい作品ではありませんね. ただし,実際に見たことがある方は少ないのではと思います… ,というか見る人だけが
繰り返し見ている映画でしょうね.

小生のまわりもやはりそうでした.
一時期,「 直撃― 」の2作と黒澤・小津・溝口を見れば,日本映画の8割を押さえたことになると公言していた小生は,
その布教のため,学生時代に友人の家で泊まり込みの上映会を開いたことがあります. ( どうぞご批判くださいませ… )
たまたま小生の世代は,金曜20:00テレ朝組が多く,比較的この格闘技系映画の評判は良好でしたね.
またその感想に多かったのは,タレントの関根勤さんがソニー千葉のものマネをしますが,あれが実はおさえ目にやっていたんだね
という声でした… . 本当にそうなのです,あれでおさえ目!

先日,別の作品で右脳映画の復活を叫びましたが (参照:「がんばれレイヴェン」),その映画に比べれば,
千葉ちゃん映画は何のカタルシスもない無茶苦茶な作品です. どう見ても伊豆か熱海で撮った風景なのにテロップで
「ニューヨーク 」と謳ったり,また無用に女性の裸が出てくる… . 千葉ちゃんの殺陣も,何だか大きく両手を回して,
ちょうど三隅研次監督の眠狂四郎の円月殺法のようですが,茶の湯のように洗練された動きの雷ちゃんに比べて
全くスキだらけな感じで,ただ「はぁーっ!」とウルサイもの. でも… ,楽しい !!!

そこには千葉真一さんのサービス精神が溢れ,また映画,これは映像と言い直してもいいのですが,元来このメディアは
理屈ではなく,直感に訴えるものだということを再認識してしまいます. 男は右脳に,女は右脳と子宮の両方に響く媒体という点が,
圧倒的に左脳も必要とする小説とは違うところですね. 一見矛盾した表現ですが,ロジカルに構築したもので右脳を刺激するものが
映画だと小生は認識しています. それを感動や記憶というところを考えず,刺激オンリーに徹底した映画こそ,
「直撃!地獄拳」 「直撃地獄拳 大逆転」なのです.
小生はこれ以外の同系統の千葉ちゃん作品を全て見ていますが( しかも映画館で…自慢 ),特に完成度(?)として,
この2作品が秀でていますよ!

最近多い,テレビで見ても同じだねという映画ではなく,これは映画館で見ようよというシネスコ作品の本作品ですが,
なかなか見れる機会が減りつつあります. 昔は毎年,どこかの小さな館で特集を組んで上映をしていましたが,
探さないとなかなか巡りあいませんね. レンタルも大きいところに行かないと入手できないでしょう.
それほどの労力を払ってまで見る価値があるのかと問われると,「あるぞー!」と大上段に振りかざせないのが,
また千葉ちゃんらしい.

倉田保昭さんのかっこいい殺陣や,千葉ちゃん演じる甲賀竜一 (スゴイ名前でしょ) の少年時代を若かりし真田広之さんが
やっているなど,ちょっとプロデューサー的宣伝もしつつ,しかしそうして 「 映画を探す 」という行為そのものが,
ちょっと素敵だなと思ったりします.

まだまだ暑い夏が続く日々に一献どうぞということで.

Comments

  1. にじばぶ says:

    「直撃!地獄拳」と「直撃地獄拳 大逆転」の2作品ですが、池袋の「新文芸坐」で石井輝男特集が組まれた時に見逃した経緯がありまして、ずっと観たいと思い続けてきたんです。
    最近、新宿のツタヤにこの2本があることを発見したんで、レンタルしようと思っています。

  2. 未だに中野在住 says:

    こんばんは。久しぶりに直撃地獄拳が見たくなったな。今度また上映会希望します。

  3. gauche says:

    雨中ご足労いただき,ありがとうございます.

    > にじばぶさん
    石井輝男監督のカテゴリーは,まず拝見しました.(笑)
    小生は学生時代に,東中野だったかで「ソニー千葉特集」の折,数々の「…拳」を体感した次第です.
    少し前に,新宿ツタヤで偶然思い出して,久々に「…大逆転」を探したのですが,見つけられずに
    とうとうなくなったかと落胆していました…有ってよかった.(笑)
    今度は,にじばぶさんの次に小生も.

    >未だに中野在住さん
    またやりたいですね! 暑い時に,むやみに熱い本作品の上映会…,昔を思い出しますな.
    野郎5人も集まってこの映画をかけたら,部屋の温度が80度くらいになりそう.(笑)

  4. にじばぶ says:

    とりあえず『直撃!地獄拳』の方を観てみました!
    最高でした!
    これは間違いなく傑作です。
    数ある石井輝男作品の中でも傑作の部類に入るかと個人的に思いました。
    簡単ですが、レビューを書きましたので、お暇な時にでもお読み頂ければ幸いです^^

  5. gauche says:

    > にじばぶさん

    おはようございます. 夏真っ盛りに灼熱の映画をご覧なりましたね.
    ログ中にも書きましたが,見る人だけが繰り返し見る映画なので,なかなかこの方向の
    お話ができる人がいません. 何だか無性に嬉しいコメントです.(笑)
    日本の映画は今,王道なき存在になっており,逆にこの手の映画は多々あるように思います.
    でもそれも,この千葉ちゃんの映画と比較するとどこか小粒な感じがします.
    王道がしっかりとあって,その隙間で千葉ちゃん映画のようなものがあるのが楽しいのですから.
    人間力も含めて,王道の復活を切に願うところですね.
    続編の「… 大逆転」は様々な意味でスケールUPしておりますので,ぜひご覧くださいませ.
    後ほど,にじばぶさんのサイトにお邪魔いたします.

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