15夜通信 / 光は闇に


宮崎 吾郎 監督 第1回作品

邦題 「ゲ ド 戦 記」
英題 「A Wizard of Earthsea」
2006.7.29 公開 / 115min カラー/Aビスタ

いつまでもそこにいれると思うなよ… .


お行儀の良い悪いは個人の性格によりますが,これが若い世代の基本的姿勢でよいと思います.
そして勉強する! もちろん上の人間に悟られないように….

迂闊な先達はそれで転げ落ちるでしょう. 本当に目標となる人物は,またその先を勉強しているものです.
そして迂闊な若者は腕試しとばかり挑んでは軽くあしらわられ,気づくのです.
この人はいったいいつ寝ているんだろう… ,こん畜生めとまたまた勉強する.

これが世代の交感であり,新旧の世代のあるべき姿とすれば,宮崎吾郎監督の取り巻く環境はまさにそれですね.
小生,中学生の折に原作を図書館で読み,1巻クライマックスの影と相対するシーンでは,
感動して泣いてしまったのを思い出します.
そして折りしもその同じ時期に,監督のお父上の「風の谷―」を見て,小生は現在の仕事の道に入りました.
火中の栗とは申しますが,今回の「ゲド―」はよくぞ決断されたと思います.

恵まれた環境と激しいまわりの先入観… ,年齢的にも監督自身,制作を取り巻く様々な事象が見えぬはずがありません.
ましてや助走ナシのいきなりジブリ新作ですから,大変なことです.

それでもいつだったか,イチロー選手の言っていた言葉を借りれば,「通用するかしないかという議論はナンセンスです.
これから挑戦しようとしている人間に,そうでない人が言える言葉は〝がんばれ!〟だけでしょう」

闘争心ということが,先日のW杯サッカー以来,よく論じられますが,映画の世界もまさに同じことが論じられて然るべきですね.
今回の人事は,そういう意味でも鈴木敏夫さんの若い世代に対するひとつの挑戦と言えるのではないでしょうか?
しかも 「見えぬものこそ」 というコピーから想像するに,高度経済成長期を猛烈に働いた親を持つ小生の世代が,
これから1番に考えなければならないことのような気がします.
実利な,目先な生き方を良しとする現在,またその手合いがヒーロー的に扱われる今の日本で,
この宮崎監督の作品の評価が今の小生たちの世代の評価と言っていいと思います.
つまりよろしければ我々も捨てたもんじゃないとなるし,罵ればそれもまた全て自分に対して言っているのと同じです.
批評論評している場合ではなく,ともに考え,ひとりひとり悩んで答えを探せー!
その意味でも,確かにこの作品は父上が撮っても何も意味がありませんね.

そりゃ,集中点を意図的に2つ作ってパースを崩したりする,老練で人間の視覚原理を知り尽くしている親父さんが作れば,
面白いものなるかもしれません. でもそれは宮崎駿さんの年齢を考えれば,刹那的なものの考え方ともいえるでしょう.
これは逆から言えば,団塊世代への警鐘ともいえるのかな?
いつまで自分で魚釣ってんだ! きちんと次に釣り方を教えろ!! そりゃ一時は釣れずに飢えるかもしれない.
でも今伝えなきゃ,考えさせなきゃ,親が生きてるうちにマスターしないぞー…,というところでしょうか ?!
映画なんて面白いか,つまんないかのどちらかでいいじゃないかという快楽主義は終わりを迎え,
これからは見たらすぐ考えつつ行動する時代だと小生は思います.

その自分たちが出遅れてしまっている部分を宮崎吾郎監督が先鋒として走ってくれているのだと思えば,
自ずと今回の新作の見え方も変わるでしょう.

そしてそのことが,宮崎駿さんがやりたくてもできなかった「ゲド戦記」への無念を晴らすことにもなるのだと信じます.

・よろ川長TOMのオススメ座CINEMA
映画への愛情溢れる視線で本作も非常に丁寧に紹介!

・絵描人デイズ
人間,瞬発力が大切.小生の琴線に触れました….

・イーハトーブの新米百姓。
何だかすごくいいですよ! とても清々しいサイトです.

Comments

  1. renkonn says:

    トラックバックを辿ってこちらのサイトに参りました。私も今回の「ゲド戦記」は噛みごたえのある秀作だと思っています。後ほどトラックバックを張らせて下さい。

  2. 15夜通信さん、はじめまして。
    押しかけトラバにもかかわらず記事内でリンクにひとことコメントまでいただいてありがとうございました。
    おっしゃる通り、この作品でジブリは次のステップへの移行を図ろうとしていると思いました。じっさい、世代交代を10年待たされたのです。新たな指揮者を渇望しているのは実は宮崎・高畑の御大二人と鈴木Pご自身のはず。
    思い返せば、かつて駿氏が吾郎氏と似た年齢だった頃に描いた『ホルスの大冒険』もよく似た批判を受けていましたね。説明不足、子供にはわからないだろうエトセトラ。でも数十年経た今でもかの作品は東映長編アニメの金字塔のひとつですものね。
    これからもよろしくお願いします。

  3. gauche says:

    > renkonnさん
    旅の途中,しばしお休みいただき,ありがとうございます.
    貴ブログも拝見いたしました.小生も単純に映画が好きで,またその道を志したのも宮崎駿さんの影響が強いものですから,
    その想いとそれほど年齢的に離れているわけではない吾郎監督に何か追い風をと思ったまでです.
    ただ僭越ながら,renkonnさんにご理解頂きたいのは,それが彼の選んだ道だということです.映画監督は作品が全てで,
    それ以上でもそれ以下でもありません. 美味しくないと判断されれば,それまでなのです.
    今回余りの事態にレスキューをというお気持ちは尊いですが,しかし中身の無い誹謗中傷もそのうち淘汰されると思いますので,
    人生の限られた時間をゲドからもらった温かいものを胸に,次に移られることが肝要かと存じます.
    それでは今後とも末永くご贔屓によろしくお願いいたします.

    > よろ川長TOMさん
    コメントありがとうございます.
    いろいろとご存知なので,読まれますと少々恐い気がしますが,何卒お手柔らかにお願いいたします.
    また遊びにいらしてくださいませ.

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